世界のデータセンター反対運動

レポート

データセンターの建設ブームは世界的な現象ですが、同時にその環境負荷の大きさから、各地で強い反対運動が起きています。
特に、データセンターの実態をよく知る人々が多い地域や、環境問題が深刻な地域で、計画の中止・延期事例が増加しています。

世界各地で起きる反対運動の現状

反対運動が活発な地域と背景

  • 計画中止・延期事例の増加:
    環境負荷やインフラへの懸念から、反対運動の結果として大規模なデータセンター計画が中止・延期に追い込まれる事例が多発。
  • 特に目立つ地域:
    • アイルランド(ダブリン):
      欧州のデータセンターの約25%が集積しており、国内電力の約20%をデータセンターが消費(2030年には30%に達する予測)するという深刻な電力逼迫問題から、新規建設が事実上ストップしている。
    • 米国バージニア州北部:
      世界最大のデータセンター集積地だが、急速な開発に対する地域住民の懸念(騒音、景観、環境負荷)から反対運動が活発。
  • 「実態を知る人」の反対:
    すでに多くのデータセンターがある地域で反対運動が多いのは、データセンターがもたらすメリット(雇用、税収)の少なさや、デメリット(排熱、騒音、電力消費)の大きさを住民が実際に体験しているため。

環境問題に直結した反対運動

  • 水不足からの反対:
    干ばつが問題となっているメキシコチリなどでは、冷却に大量の水を消費するデータセンターに対する水資源保護を求める反対運動が起きている。
  • 農家からの反対:
    オランダなどでは、広大な土地を占有し、地域経済への貢献が少ないデータセンターに対し、農家が反対の声を上げている。

政策・規制の動向

  • シンガポールの事例:
    • 2022年に電力消費と環境への影響を懸念し、新規データセンター建設のモラトリアム(一時停止)を実施。
    • その後、隣国マレーシアへの建設加速という事態を受け、2024年に新たな環境保護を強く意識した規制を策定し、モラトリアムを撤回。
  • アイルランドからの移転:
    アイルランドでの規制強化と電力問題を受け、再エネ電力が豊富なスウェーデンスペインなど、他の欧州諸国にデータセンターを建設する動きが加速。
  • 政治問題:
    2023年11月には、ポルトガルでデータセンター開発がらみの汚職容疑により、アントニオ・コスタ首相が辞職するという異例の事態も発生。

各国の具体的な規制と対策事例

アイルランド(電力問題の最前線)

欧州におけるデータセンター問題の象徴的な場所。

  • 電力系統への負荷が限界に達し、ダブリン地域では新規データセンターが系統に接続できない状況が続いている。
  • このままでは、天然ガス発電への依存度が高まり、CO2排出量が増加することが必至とされている。
  • 対策として、データセンター事業者に対し、自前の発電所、蓄電池、送電設備の設置、および電力系統の安定化への協力(柔軟性提供)が義務付けられる方向で議論が進んでいる。

米国バージニア州(賛成派と反対派の対立)

米国バージニア州北部でも、開発の是非をめぐって激しい意見の対立がある。

米国での反対運動
米国での反対運動

データセンター開発における主張(賛成派 vs 反対派)の比較

論点 賛成派の主張 反対派の主張
税収
  • 町や郡に新たな収入源
  • 財政基盤を強化
  • 安定した税収は保証されていない
  • 増税の恐れ
  • 資産が不透明で信頼できる数字がない
  • 税収の依存が自治体の将来的なリスクになる。たとえば法人が撤退したり設備が古くなったりした際の税ベースが揺らぐ可能性
経済効果
  • 開発が進むことで地域が活性化
  • 雇用はごく少数で経済開発効果はほぼなし
  • 地域の利便性や新しいサービスは期待できない
電気代
  • さらなる送電線などのインフラ建設が必要で電気代が高くなる
  • 同量の水を手配
  • 水不足を加速
大気汚染
  • 大気汚染防止装置を設備
  • ディーゼル/メタン発電による大気汚染物質発生 (PM2.5、NOx)
インフラ
  • 送電線や電力基盤整備が進み、将来的な需要にも対応
  • さらなる送電線・送電塔建設は景観、環境、電気代に悪影響
  • 既存の道路・インフラでは対応できない
土地利用
  • 未利用地を有効活用
  • 包括的計画にない「場当たり的なゾーニング」
  • 農村や景観ゲートウェイを破壊
CO2
  • 再エネで電力供給
  • 再エネだけでない
  • 再エネは他の需要にあてるべき
  • 再エネと言っても証書やカーボンクレジットの場合が多く、質に問題がある場合が多い
排熱
  • 排熱利用する
  • 熱を大量に放出
地域の将来像
  • データセンター誘致で他地域に遅れない
  • 持続的なまちづくりに合致しない
意思決定
  • 開発を急ぐべき
  • 透明性のある公開議論が不可欠
  • 住民の声を十分に反映すべき
デザイン
  • モダンなデザイン
  • データセンター特有の建築基準(デザイン・環境・立地配慮)を導入すべき
生態系
  • エコロジーパークを隣接させて建設する
  • 既存の農地や作物が減少し、生態系が破壊される
住環境
  • 直接的なマイナス影響少ない(とされる)
  • 騒音や振動で生活環境が悪化
  • データセンターや送電線近くの住宅価値が下落
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